認知症介護で感じた感情と心のあり方
認知症の方と接する時に、いちばん意識していることは、
自分の感情や心のあり方です。
感情は、穏やかにいるように。
心のあり方は、先入観や批判的な考えを持たないようにフラットな考えでいることです。
認知症の方とはじめて接したときに、ぼくは軽い衝撃を受けました。
というか、ぼくでなくてもみんな衝撃を受けると思います。
よく、テレビ番組のコントやなんかでボケたおじいちゃん・おばあちゃんのコントがあったりしますが。
たとえば、同じ話を何回もするだとか、ご飯を食べたことを忘れるだとか。
それらのことはコントの世界で起こっているのではなくて、本当にリアルに起こっている。
嘘だと思うなら介護施設で1日働いてみるといい。笑えるぐらいリアリティーを感じると思う。
コントを観ているように、第三者として認知症の方と関わっているのであれば微笑ましく見ていられるのだけど、当事者として実際に関わるとなると話は全く別になる。
認知症の方と接するということ
ひとくちに認知症といっても、症状はさまざまで、
さっき行ったことが記憶できない短期記憶の喪失・着替えやトイレができなくなる失行があったり、食べ物を認識できなくなったりする失認があったりとさまざま。
今何時?ここはどこ?あなたは誰?
なんてことはめずらしくなく、これは見当識障害といって認知症ではよくある症状のひとつです。
コミュニケーションがとれなくなっていく
ぼくがいちばん戸惑うのは、コミュニケーションがとれなくなること。
認知症により、言葉を扱う脳の部分に異常が生じるため、
相手が何を言っているわからない。
こちら側の言葉が伝わらない。
そういったコミュニケーション伝達ができなくなっていくのです。認知症は進行性の病気なので、どんどんわからなくなっていきます。
イメージとしては、テレビ番組のテロップで出演者がセリフを噛んだ時の表記。「□^:@#$%&」みたいな感じで、聞き取れなくなっていきます。
「お手洗いいきましょう」と伝えても、認知症の方には伝わらないことがありましすし「□^:@#$%&」という認知症の方の言葉は「トイレにどこですか?」と聞かれていることもあるんです。
伝わらないことが積み重なると
こうして伝わらないことが積み重なっていくと、介助している側は気づかないうちに少しずつストレスを溜めていきます。
「ご飯食べにいきましょう」
「お風呂に入りましょうか」
「もうそろそろ寝ましょうか」
そうしたあたりまえの日常生活ができなくなっていくのです。
本人に自覚はない
かくいう本人は、認知症である自覚がなかったりします。
ひとりで外出してしまって家に帰れなくなることがあったり、足腰が弱くなっていても杖やシルバーカーを持たずに歩いてしまうなど、危険を察知できなくなったりします。
ぼくの身内に認知症のおじいさんがいるのですが、徘徊してしまって結局警察に保護されて帰ってきました。幸い事故にも遭わず怪我もしていなかったのでよかったですが、次も無事とは到底思えません。
また、他人に迷惑をかけてしまったという感情が、介護者を追い詰めていくこともあります。
認知症の方と接することは、そういうことの連続なのです。
認知症の方と接する時に意識していること
言葉が伝わらなくなってきたら、どうすることもできないのか。
そんなことはありません。
言葉が伝わらなくても、伝えられることはたくさんあります。
視覚から伝える
目が見えないわけじゃないのです。認知症の方に映っている映像とぼくが観ている映像は一緒です。
トイレの場所を伝えたいのであれば、地図を書いたり方向を示すマークを貼ったり、トイレのイラストを描いておけばいいのです。
もちろん伝わないこともありますが、伝えることをやめてはいけないと思うんです。
だから、認知症の方と接するときは必ず「笑顔」から入ります。
怒った顔、無表情、難しい顔をしてた状態で「ご飯食べに行きましょう!」と言っても、間違った伝わり方をするかもしれません。
笑顔で接して、まず安心感を与えることが大事だと思っています。
動作で伝える
認知症の方は、トイレの仕方・ご飯の食べ方・着替えの仕方がわからなくなってきます。
「シャツ着てね・ズボン履いてね」が言葉では伝わらなくなります。
なので、シャツを着る動作・ズボンを履く動作をジェスチャーで見せたりして、視覚から伝えるようにします。
体で覚えると言いますよね。動作は覚えているのである程度のところまでサポートしてあげればできることは沢山あります。
無理やりやったり強制しようとしたりすると、抵抗・暴力的になったりすることもあるので、できるだけご自身でやれる方法を工夫するようにしています。
感情を伝える
言葉によるコミュニケーションが取れなくなっても、感情の交換はできます。
認知症で言葉を失った方の特徴として、感情が鋭くなることがあります。
たとえば、介護施設で職員がイライラしていたりすると、認知症の方は暴力的になったり暴言を吐くようになったりとか。
冷たい言葉・汚い言葉・不満・愚痴の裏側にあるネガティブな感情を敏感にキャチして、その場から離れようと、帰宅願望を訴えたり、徘徊したりします。
それらは、心地いい場所を求めているだけなんだと思います。自分の身を守ための回避行動です。
決して、介護者を困らせようと思ってやっていることではない。ぼくはそう思っています。
なので「大丈夫ですよ・安心してくださいね」と優しく語りかけ、ポジティブな感情を伝えることを大事にしています。
手を握る
手を握ったり肩を組んだり、そうして距離を縮めていくことも大事にしています。
認知症の方は孤独なんです。
自分の言ったことが伝わらない・ここがどこで・目の前にいる人が誰かわからない。そうした世界に閉じ込められいると考えた場合。
介護施設で他の利用者さんと一緒に過ごしていたとしても、きっと孤独を感じているはずです。
なので、できるだけ距離を取らないようにして、手を握ったり肩をさすったりして、安心感を伝えています。
認知症の方と接している中で学んだこと
介護者の感情・心のあり方で、認知症対応は決まると思っています。
認知症の方が問題行動を起こすのではなく、介護者の対応が問題行動を引き起こしていると考えるようになりました。
なので、ぼくは常に自分の感情と心のあり方を見つめるようにしています。
平穏でいるときはトラブルが起きにくく、荒れているときはトラブルが重なります。
介護に限ったことではないかもしれません。
豊かで楽しくいることが、人生において大切なことなのではないかと、介護職を通じて、認知症介護を通じて学んでいます。
認知症の方と心が通じあったと思えた瞬間、とても豊かな感情になりますし介護職の楽しさを実感します。
ぼくは介護職をやっていて、よかったと思っています。