映画「ロストケア」を観て介護職員として思ったこと
介護職のみなさん。
映画「ロストケア」観ましたか?
介護をテーマにした映画って、いくつかあると思うんですが、
若年生認知症の方を描いた「オレンジランプ」「私の頭の中の消しゴム」とか、涙なしには語れない映画ですよね。

こんにちは、のざき寿(ひさし)といいます。デイサービスの介護職員です。
noteで介護をテーマにしたエッセイを書いたりもしています。
映画「ロストケア」
作品の細かい内容について語ろうとは思いませんが、
親が認知症になって介護が必要になり、在宅介護のリアルと介護者の心の葛藤を描いた作品で、サスペンス要素を含んだエンターテイメント作品です。
大事なのは、
エンターテイメント映画作品だということ。
あれが介護の現実だなんて思ってはダメですね。悲惨さが強調されすぎていて衝撃が強すぎるからです。
あまりにリアルすぎて、ドキュメントじゃないかって思ったりもするし、
もうね、主演の「松山ケンイチ」さん、その父親役の「柄本明」さんの演技が上手すぎるんですよ。
とくに「柄本明」さん。認知症や要介護状態の方の演技って、なんなん?現場を見に行って観察しないとできない。すごっ!
それだけで一見の価値はありました。
介護職員から見た映画「ロストケア」の感想
映画で描かれていることが、リアルなのかどうか。
「フィクションですね。」とも言い難いし
「リアルでした。」とも言い難い。
というのは元ネタとなる介護事件があって、その事件をモチーフにしているからです。
介護のリアルを描くならサスペンス要素はいらないですし。でもサスペンス要素がないとエンターテイメント作品としては面白みに欠ける。
だからリアルとフィクションの中間といったところ。という感想です。ぼくは。
みなさんはどうでしたか?
「ロストケア」を書いた原作者の方も介護経験者
この映画には原作となる小説があります。
2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、作家デビュー。
ジョブメドレー
2023年に映画化されました。
原作を書かれた方は認知症介護・在宅介護の経験者だそうです。
だから単なるミステリーではなくメッセージ性のある内容になっているんですね。まぁ介護という社会課題を題材にしているのですから、自然にそうなりますよね。
在宅介護者の苦悩はフィクションじゃない
さっき、リアルでもフィクションでもないと言いましたが、
松山ケンイチさん演じる「難波」の在宅介護での様子は、リアルに描かれていると思いました。
認知症介護は、大変なんてものじゃありません。
おそらく介護職員であれば容易に想像がつくと思いますが、
当たり前だった日常が、いとも簡単に崩壊します。
24時間365日の介護が必要になり終わりが見えない。
仕事もろくにできず介護離職し、金銭的に追い詰められて社会から孤立し孤独になる。
高齢者虐待の加害者は同居する家族・息子が一番多いんです。これは厚生労働省の調査で明らかになっています。
ぼくもですね。70歳を過ぎた母親と同居していますからね、他人事ではないんですよ。
なんか悲しくなりましたね。ちょっと辛かったし、
なんでもっと「介護の明るい場面も描いてくれなかったのか!」と、正直、憤りもありました。介護職員としてはね。
介護職員・介護者の声
ぼくはデイサービスで介護職員として働いています。
出勤の時はほぼ毎日、認知症の方と接しているのですが、
はっきり言って大変です。
介護に慣れていて、介護現場で介護しやすい状態でも認知症介護は大変なのです。
在宅介護されているご家族の方々からいろんな話を伺います。
想像を絶する苦労があることが見えてきます。
認知症介護の家族の会で介護者が語る本音
ぼくは、地域で開催されている「認知症介護の会」に参加することがあります。
認知症介護をされている家族が集まって、情報交換や意見交換をするボランティア団体みたいなかんじです。地域のオレンジカフェで開催されています。
在宅介護している人しか集まっていなので、包み隠すことなく次々と本音が飛び出します。
「もう、ムカついたからお尻引っ叩いてやったわよ」
「徘徊するから部屋のドアには全部カギをつけるようにした」
「冷蔵庫を開けられると困るから鍵をしてある」
「もう、わたしどうにかなりそうで。このまま一緒にいると酷いことしてしまいそうで」
「排尿とか排便とか、もう泣きながら掃除してる」
もう、話が尽きることはありません。どんどん吐き出されます。
最初の方は、面白おかしく話しているんですがね、だんだん時間が経つにつれて、
「・・・」
無言になり、
啜り泣く声が聞こえてきます。
限界まで我慢していてやっと吐き出せた安堵感からか、嗚咽混じりで泣き出す方がほとんどです。
それだけ孤独で、誰にも相談できない心の葛藤を抱えて介護しているということなんです。
映画「ロストケア」は単に悲惨さを描いたものではない
となると、映画で描かれている悲惨さや息子の心の葛藤なんかは、
単に悲惨なだけでなく、現実味を帯びた悲惨さってことが身に染みてわかってきます。
きっと在宅介護を去れている方は共感できる部分もあれば、これ以上見たら精神を保っていられなくて見るのをやめたって方が多いのではないかと。
ですから介護を知らない方にこそ、見てもらいたいなぁと思ったんですよね。
どうですか?みなさんはどんな感想をお持ちですか?
介護に対するイメージ
介護って、いまだに、
「きつい」「きたない」「きけん」
のイメージがありますよね。
介護を語るときに、ネアティブなイメージの方が語りやすいって、
この現状を変えていきたくはありませんか?
ぼくは介護の仕事が好きで介護職をしているので、テレビやマスコミにイラッとすることがありますね。
こないだテレビを見ていて悲しくなりましたが、
介護にまつわるテレビのニュースって事件ばっかり
「〇〇県の〇〇施設で、介護職員が利用者さんに対し虐待を〜」
みたいな、悲惨なニュースが流れていました。
ローカル番組のニュースで、ぼくの住んでいる地域とは関係のない介護施設のニュースです。
交通事故やそのほかの犯罪のニュースなら割と聞き流せるのですが、介護のニュースとなるとやはり気になって見てしまいます。
そのニュースが終わってCMに入りました。
保険のCMが流れました。
凄惨なニュースを扱って不安を煽り、安心を売る商品の広告を流すという。介護の事件はそのように広告として使われていることもあります。
悲しくなりますねぇ。
そのイメージが国民感情にこびりついて、ネガティブなところにしか焦点が当たらなくなるってことが、ぼくは悔しくてしょうがありません。
「〇〇さん!今日は20メートル歩くことに成功しました!1年かけてリハビリに取り組んできた成果です!感動的です!」
みたいなニュース流してくれんか。
ロストケアが論じること
そうそう、映画ロストケアには「救済」というテーマもあります。
- 救済されている家族。
- 救済を受けられなかった家族。
- 救済しようとして起こした行動。
3つの家族を対比させて、介護の救済を論じています。
本当はみんな救いを求めているんです。
でも、孤独な認知症介護は救済を求めることさえ難しい局面に追い込まれる現実もある。
それは、認知症の家族がいることを公表できない社会とか、
認知症そのものを理解できていない世の中とか。
そういったことも含まれているのだと思います。
ぼくは介護の仕事をするまで、介護とは全く無縁の場所にいたため、知りようもないし理解しようがなかったのです。
ぜひ映画「ロストケア」を観てほしい
認知・啓蒙・問題提起などの意味においても、もちろんエンターテイメントにおいても、映画ロストケアは面白い作品でした。
セリフ・構成、素晴らしかったし。
役者さんそれぞれの演技が凄まじかったです。
ぼくは鳥肌立ちまくりました。
心に残る映画でした。観てよかったです。
介護の面白さを伝えていきたい
ぼくは、介護職員です。
介護の仕事って楽しいです。
車椅子を使ってしか移動できなかった利用者さんがですね、短い距離の歩行訓練を重ねてリハビリを頑張って、しまいには散歩や買い物にいけるまでになったりとか。ご家族と旅行に行けるようになったりとか。
亡くなる直前まで、デイサービスに来てくれて。
「あなたの顔が見れてよかった」言ってもらえたり。
そりゃ嬉しいですよ。感動しますよ。
うんちやおしっこの世話だけじゃないんです。
人を生かすこと・活かすことが介護職員の役割でもあるのです。その人の生きる目的になることだってあるのです。介護はとてもクリエイティブな仕事なんです。そうですよね。みなさん。
介護には「太陽のように明るいニュースもある」ってことを、ぼくと一緒に広めていきましょう。